選好と効用関数 証明

Krepsに従って、選好関係から効用関数u:X→Rの存在を証明する。アウトラインのみ。選好が有限集合上で定義されている場合を証明し、それを可算集合上へ拡張。最後に不可算集合へ拡張する。最後のステップではやはり連続性を仮定する。

  • 有限集合の場合

このステップでは数学的帰納法を使うのがミソ。Xを有限集合とし、その上に完備律、推移律を満たす選好関係\succeqが定義されているとする。\succeqから同値関係\simが導け、\succを定義できる。Xnを濃度がnの集合とすると、元の個数が1のX1で効用関数が存在するのは明らか。

n-1で命題が成立しているとしてXnを考えると、Xnから一つの元xを取り除いて作ったX'nの濃度はn-1。この時X'n上の選好関係は完備律・推移律を満たすから、数学的帰納法の仮定より効用関数が存在する。最初の取り除いた元xについては次の4つの可能性しかない。

    1. \forall y \in X_n,\quad x \suc y
    2. \forall y \in X-n,\quad y \suc x
    3. \exists y \in X_n,\quad x \sim y
    4. 上の3つ以外。つまり無差別なものが存在せず、どれか2つの元に「挟まれている」。

どの場合においても、効用関数は矛盾無く定義できるのは明らか。Krepsでは効用関数uをXからRの開区間(0,1)への写像と定義しており、この場合でも1の場合は1とmax Xnの間の実数、2の場合は0とmin Xnの間の実数、3の場合はu(x)=u(y)と定義してやればよく、4の場合はu(y)>u(x)>u(y')となるような実数u(x)を定義すればよい。

このステップでは選択公理がミソ。選択公理は簡単に言えば、空でないAnの集まり{An}の直積は空でない、ということ。この添字nは非可算でもよいがここでは自然数とすれば十分と思われる。添字集合が有限の場合は公理とするまでもないが、無限集合の場合は「選び方」を指定できないので公理として決めておかないといけない、ということらしい。実際、この証明でも選択公理を使う場面でちょっと気持ち悪い感じがする。

Xを可算集合とすると、その任意の有限部分集合Xn上の選好関係は「合理的」である。Xn帰納的に定義する。つまり、Xn=Xn-1+{xn}で定義する。この時、前のステップからXn上に効用関数unを定義できる。任意のnで成立するのでX上の関数uをu(x)=un(x)と定義すればuは効用関数となる。非常に違和感があるが、Xの任意の元yについてnを十分大きく取ればyはXnの元となる。

ここで簡単に効用関数uの存在を云っているけど、選択公理が効いている。選択公理が効いているのはわかるんだけど、僕の身についていないので上手く説明できない。

このステップでは「連続性」がミソ。というか、概念としてはこれを仮定すればほぼ自明。可算集合でのステップで、有理数全体の集合Qをイメージすれば、足りない部分は無理数の部分であるけど、Qは稠密だから任意の無理数有理数の極限として表現できる。だから、選好関係が定義されている集合は本来完備であることを明示すべきであるし、実際Debreuなどでは結構うるさくいろいろ仮定されている。僕は何も考えず普通にユークリッド空間を考えているのであしからず。

Xの任意の元xに対して上で考えたような可算で稠密な部分集合からxに収束するxnを取れる、といえばそれで十分だろう。u(x)=lim u(xn)とすれば、選好関係と整合的な関数、すなわち効用関数が構成できる。(証明終わり)

本質的には可算集合において選好関係から同値類(無差別集合)を考え、それらが全順序になっていることから効用関数の存在がいえるのだろう(もっとも同値類の必要性は証明では本質的ではないけど)。あとの選択公理だとか、連続性の議論はたしかに数学的な最後のツメであって、経済的に本質的ではないよね。選好関係が定義される集合というのは実際問題としては高々可算だろうから、特に連続性の議論は数学的な議論をしやすくするためのもの、と考えて良いだろう。

参考文献

  1. David Kreps 『Notes On The Theory Of Choice (Underground Classics in Economics)