アーノルドの『古典力学の数学的方法』という名著と謳われる本がある. 解析力学の数学をきちんと書いた本らしいが, 残念ながら邦訳だと在庫がない. 原典では第2版が出ているらしく, その翻訳との絡みで第1版の訳書の在庫がないのであろうか. こういう専門書は需要があるはずなのに廃版というのが結構ある. 2000部くらい刷ってくれればアマゾンとかで2,3年ではけると思うのだけど, 増刷してくれないかな, 出版社さん. とりあえず古本屋をあたるしかない.

複数の数学の先生が「原典を読め」と言う. そんなもんかと思って食わず嫌いもイカンと思うから読めなくても買ってみようかと思っている. 『ガウス 整数論 (数学史叢書)』とか『オイラーの無限解析』とか『ユークリッド原論 縮刷版』とか. 高木貞治の『初等整数論講義 第2版』もそうした一環で授業でやっているが, 難しい. 高木貞治の『復刻版 近世数学史談・数学雑談』の『近世数学史談』はガウスの話から始まる数学史なのだが, 普通の数学史の本と違い, 教科書的な数学史の本を書くつもりは全くないし, 具体的に過去の偉人の書いた本なり論文を解読して具体的に数式を追うような場面もあり楽しい. 天才数学者の天才数学者による解説というのはそう滅多に触れられるものではない.

教科書というヤツはそれまでの集大成であって, 形式的にはエレガントで全ての定理が天から舞い降りてきたかのように無駄がない. ところが, 実際には当然その時代時代においては最先端の研究であって苦労があったはず. 「原典」に触れる, というのはこの苦労というか, 新しいものが誕生する時代の息吹を感じるってことなんだろう. 高木貞治の本が名著といわれるのは, それが多くの分野を網羅し内容が美しいということではなく, むしろ一見関連性が見えなかったり, 非常に細い線を辿っているように見えても終わりまで辛抱強くこなしていくと数学への理解が非常に強まるからなのだろう.

ブルバキ的な教科書は数学の骨格が見えやすく, 僕は学びやすいと思う. けれどもそれだけでは不十分で, 骨格だけでなく肉も付けなければならないわけで, 高木貞治の本というのは全ての骨格が見えるわけではないが, 重要と思われる骨とその周囲の筋肉もバッチリつくような感じがする.